ふるさと納税 普及理由は返礼品にあらず

 総務省の発表によると、平成28年度のふるさと納税の寄付額は2844億円となった。平成27年度の約1652億円を1.7倍上回り、4年連続で過去最高額を更新している。

 ふるさと納税に関して、最近は批判的な報道も多い。その内容はだいたい3つに分かれる。1つは高額な返礼品競争の過熱。総務省は、ふるさと納税の募集や受け入れ等に伴う経費が約1485億1000万円であると発表している。内訳は返礼品の調達にかかる費用(約1000億円)、返礼品の送付にかかる費用(約150億円)などだ。
 半分以上が経費ということになる。

 ふるさと納税の普及により、それまで税金が納められてきた都心部の税収入が減少していることも報道されるようになってきた。保坂展人 世田谷区長は、世田谷区の平成29年度の特別区民税減収額は30億円を超えたと語る。

 保坂氏は「ふるさと納税制度の本来の趣旨と意義はあるものと考えています」と理解を示しながらも「年間30億円の税財源の流出にまで膨らんだ規模は、すでに自治体財政を直撃し、限度を超えていると言わざるをえません」と語り、将来的には税収減が100億円に達するのではないかと危機感を募らせている。

 3つ目は「高所得者ほどふるさと納税できる額が多いのだから、受け取れる返礼品の数も多くなり、不公平だ」
 年収300万円ならば全額控除されるふるさと納税の上限は独身または共働きで2万8000円だが、同条件でも年収が500万円なら6万1000円、1000万円なら17万6000円、2000万円なら56万4000円というように、大きくなっていく。


総務省のふるさと納税ポータルサイトより

 こういった批判はあるが、どれもふるさと納税がだいぶ浸透したことにより改善されているもの、的外れなものばかりだ。

地方への流入、消費拡大に絶大な効果

 まず、制度の浸透により、iPadや家電製品がもらえるといった、目先のもので釣る返礼品を提供する自治体は減っている。ふるさと納税ポータルサイトの最大手「ふるさとチョイス」も、ふるさと納税に地域の特産品以外のものを出すことに対しては非協力的だ。

 現在の返礼品の主流は完全に地域の特産品であり、単なる商品だけでなく、地域のPR、観光客の呼び込みにつなげようという動きが盛んだ。

 経費が寄附額の半分以上に及ぶことに批判はあるが、半分はふるさと納税がなければ生まれなかった地方へのお金の流入だ。また、返礼品の調達とは、その多くが地元の商品を自治体が購入することであり、そこでも地方での消費の発生、さらには雇用拡大、景気活性化へとつながっていく。
「よそから入ったお金が地元に回るなら、還元率は高くても全然構わない」それが本音の自治体もある。
 返礼品の調達に1000億円かかったということは、1000億円のうちかなりの額が地方の経済活性化に貢献したこととイコールだ。

 地方にお金が回っていくために、政府はふるさと納税をもっと行ってもらいたい。そのためさまざまな優遇策を設けている。普及が進むほど、「ふるさと納税できる額の多い金持ちが有利で不公平」という声も大きくなる。

 それらのことを考えると、高市早苗総務大臣の「返礼品の還元率は30%以下に」という通知は、ふるさと納税に対する不公平感の批判をかわしたいものに過ぎないのではないかと思われる。
 産経新聞によると、総務省幹部が「拘束力のない通知にもかかわらず、大半の自治体はよく対応してくれている」と言っているというが、日経新聞が報じたところによると、寄付額の上位200自治体のうち、20弱が指摘を受けた返礼品を見直さない意向を示したという。

 これはよその自治体より抜きんでたいからという考えのところもあるだろうが、ゆかしメディアの取材したところによると「競争力のある魅力的な商品には還元率30%で収まらないものがほとんど」という声が多かった。

 しっかり考え、戦略を立てている(その結果納税額で上位に入っている)自治体ほど、杓子定規な規制に反発している。積極的な自治体、たとえば、三重県の鳥羽、志摩両市は特産品である真珠を返礼品として認めるよう総務省に逆に要望するなどしている。

 ふるさと納税の最大の功績の1つは、各自治体が「国の指示に従うだけでなく、どのようにすれば多くの税収を得ることができるか」を自主的に考え、行動するようになったことだ。
 努力が実を結ぶと税収増につながる。

富裕層はふるさと納税とこう付き合う

「返礼品がもらえるからふるさと納税が増えた」そのことは間違いないが、それだけでふるさと納税がここまで普及したわけではない。
コンサルタントの永江一石氏は、ブログで語っている。
 「寄付額が大きい高所得者の人は「食材は自分で買うからとりあえず寄付からしよう」みたいな感じで、本当に欲しいものだけを頼んであとは寄付に回してると思うんですよ」(「返礼品に釣られてふるさと納税してるって本当なのか?」より)

 永江氏のこの指摘はまさにその通りで、ふるさと納税を活用している富裕層に、返礼品が目当ての人は少ない。それよりも、税金対策で高額な寄附を一括でできるほうがありがたい。

 永江氏はふるさと納税が純粋な寄附になる「ガバメントクラウドファンディング」の増加、数億円を集めた成功事例などに触れ、返礼品だけが目的でふるさと納税がここまで普及しているわけではない旨結論付けている。

ふるさと納税の普及は「自分の税金を何に使うか」考える人が増加した結果

 高所得者優遇、都心部の税収流出についても、永江氏は鋭く反論する
「ふるさと納税は高所得者ほど寄付できる金額がめちゃくちゃでかい。これを「高所得者優遇」とか的外れにいう人がいるんだが、日本は非常にきっつい累進課税制度で年収1000万超えると恐ろしいほどに税金を取られる構造だから当たり前じゃないか(前掲のブログより)」

 総務省はどのような人がふるさと納税で多くの寄附をしているかを明かしてはいないが、日経新聞によると、日本の所得税は「上位4%が税収の50%を負担している」とされ、その割合からいっても、ふるさと納税における富裕層の税金の割合が多いのは間違いない(参考:年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は)。

 都心部の税収が減少することについても、永江氏は「そもそもふるさと納税は、田舎で税金使って育てた人材が都会に出て行ってそこで税金納めると田舎は育て損だ、という視点から始まったので、東京23区の税収が減るのは前からわかりきっていたでしょう? なのにいまさら?(前掲のブログより)」と手厳しい。

 ふるさと納税についての議論が交わされ始めたとき、当時の石原慎太郎都知事は「ふるさと納税なんかしたら東京都に入る税金が減るじゃないか」と、はっきり制度の導入に反対していた。それでも国は導入することを決めたわけだ。これだけふるさと納税が普及した結果、当初に考慮していたことが問題になるようならば、そもそもの導入プロセスに問題がある。

 また、「税収減になっていると言う自治体は、納税者の多さに甘えて何も努力してこなかったと自ら言っているようなもの」という厳しい声もある。
 税収減の世田谷区も、返礼品の提供を始めた。

 ふるさと納税は、税金の使途を自分で指定することができる。被災地に寄附する選択肢もある。

 ふるさと納税が増加した理由として、総務省の発表では「使途、事業内容の充実」「震災・災害への支援」が大きく増加したとある。
 先ほどの世田谷区の例でも、ある子育て納税者は語った。「ふるさと納税でお礼の品を受け取るよりも、保育所、託児所の充実に税金を使ってほしいから、子供が大きくなるまではふるさと納税はしない」

 納税額が大きい人ほど、自分の納める税金の使途について意識が向いている。
 ふるさと納税の普及には、「自分の納める税金をどのように使用してほしいか、自分が決める」その意識をしっかり持つ人が増えたことも要因として考えられると言えるだろう。

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