日本が目指す「仮想通貨先進国」

 2017年に飛躍的に拡大したものの、2018年に入り価格も落ち着き、コインチェックによるNEMの流出事件などもあり新たな局面を迎えた仮想通貨市場。

 世界的には仮想通貨に関して規制の動きが大きくなっているが、日本は中立の立場をとっている。

 ずさんな管理で顧客資金を大量に流出させ、いまだに顧客は出金ができないままのコインチェックに関して、金融庁は業務改善命令を出したが、同業者の間では「業務改善程度は、あまりにも甘い処分」という声が広がっている。

 同業者の声なので差し引いて考える必要はあるものの、被害者からコインチェックに対し損害賠償を求める集団訴訟の準備がされているほか、刑事事件に発展する可能性もある案件であることを考えると、一理ある考えと言えるだろう。

 仮想通貨に関して処分が甘くなりがちなのは、前例がなく法律も整備されきっていないことに加えて、国の思惑もある。
 国にとって、仮想通貨はおいしいネタだからだ。

仮想通貨は、税収的にはドル箱

 現在、仮想通貨の売買を通じて得られた利益は、税制的には雑所得が適用される。投資家が仮想通貨で儲けたならば、最高税率55%、半分以上が税金となる。投資によっては損をしても他の所得と損益通算することが可能なものもあるが、仮想通貨に関しては雑所得なので、それもない。

 損をしたら投資家の自己責任、儲けたら高額課税。
 課税する国には損がなく、得だけがある。
 仮想通貨の投資家には、どんどん投資して儲けたら高い税金を納めてほしいというのが本音だ。
 そのため、コインチェックのような仮想通貨隆盛の流れに水を差すような存在には、手厳しく当たりたいところだが、業務停止命令や廃業を命じて仮想通貨投資の流れを断ってもいけないので、対応は生かさず殺さずなものになる。

 コインチェックは流出したNEMを返金するとしているが、金融庁は「返金できるだけの資金があるのか」を立ち入り検査した。
 金融庁の確認が取れる前にこのような発表をすることを、金融庁は快く思わないものだが、それに対する金融庁の対応は、仮想通貨を扱う同業者から見れば優しいと感じられるレベルだ。

自国の通貨が強い国にはメリットが大きい

 現在の仮想通貨市場は完全に「投機」として盛り上がっているが、政府は仮想通貨が「決済手段」として定着することにも期待をしている。そこには「強い円」の裏付けがある。

 既存の通貨のように発行元になる国家や中央銀行が存在していないという、仮想通貨の特徴は、実は自国通貨の信用が高い国にはプラスとなり、自国通貨の信用が低い国にはマイナスとなる。
 そのため中国や韓国などは仮想通貨に強力な規制をかけている。「発行元がない分自由に取引できる」というメリットは、多くの発行元の国家によりしっかりつぶされているのが現状だ。

 その点、国民が自国通貨の信用を前提に仮想通貨と付き合ってもらえる国は、余裕がある。円を自国通貨としている国にいると実感しにくいが、世界的に信用度の高い通貨は多くなく、ドルと円くらいしかないと言ってもよいくらいだ。

 仮想通貨に対し中立なスタンスなのが主にアメリカと日本なのは、そのような理由からだ。

仮想通貨ならば課税対象も把握が容易

 また、仮想通貨の「相互に監視する」システムに日本政府は期待している。
 現在、日本の税制は「申告納税制度」すなわち「税に関する正しい知識を持った国民が、それに則り正しく税金を納める」を前提に成り立っている。
 だが本当にそれで済むならば、税務調査もマルサも不要なはずだ。

「トーゴーサンピン」という言葉がある。様々な職業にかかる税金のうち、税務署が把握しているものは、サラリーマンの給与にかかるものは10割、自営業者のそれは5割、農業は3割、政治家は1割と揶揄される言葉だ。
 現金を介したやりとりや、不明瞭な流れでやりとりされたマネーは把握がしづらい。把握できなければ税金の取りようもない。

 これが、仮想通貨を介してのやりとりならば、すべて記録として残るため、税務署はすべて把握できることになる。
 税収不足の日本にとって、仮想通貨は税収不足を大きく改善する手段になり得る。

 今回の事件でどのような結論が下されるかはまだわからないが、国が仮想通貨をどう考えているかに対する答えの提示される場となるだろう。

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