長期投資にぴったりのESG投資とは

 コロナショックにより、世界中の株価が暴落している。そんな中、松井証券、楽天証券をはじめとするネット証券会社は「株価の割高感がなくなった」と考える個人からの新規口座開設が激増しているという。今回は、現代の一大投資テーマである「ESG投資」について解説していく。

 説明に入る前に、まずはこちらのグラフをご覧いただきたい。



※「2018 Global Sustainable Investment Review」GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT ALLIANCE より筆者作成

 世界全体のESG投資残高である。 合計はおよそ31兆ドル、日本円にして3400兆円にもなる。 東証一部上場企業の時価総額が530兆円であることから、ESG投資がいかに巨大かわかるだろう。特に日本の伸び率が高く、2014年には7700億円だった投資額が2018年には2.1兆円とおよそ2.7倍になっている。これは、2015年にGPIFが国連PRI(責任投資原則)に署名し本格的にESG投資に乗り出したこと、それによって注目度が各段に増したからだと考えられる。

目次

そもそもESG投資とは何か

  ESG投資とは、投資先を選ぶ際にEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)といった非財務情報を投資判断に組み入れる投資手法のことである。 もともと売上高や利益率といった財務情報のみから投資先企業を決定することが当たり前だったが、それに加えて環境や社会に対する取り組み、企業統治が適切に行われているかといった点も評価することで、不祥事を起こしやすい企業や環境規制により事業が継続できなくなる企業への投資を避けることができ、長期的に投資リスクを下げつつリターンの改善を図ることができるという考えに基づいている。

ESG投資はなぜここまで拡大しているのか

 ESGという用語は比較的新しく、2006年に国連が発表した「責任投資原則(PRI)」の中で用いられたのが始まりである。ESG上の問題が、機関投資家の運用に影響を及ぼすだろうという考えを示した。

 欧米の年金基金では、世論や規制によりESG投資の導入が早かったが、 日本ではそういった動きはほとんどなかったため、本格的な導入は大きく遅れた。日本でのきっかけは、2014年に公表された「日本版スチュワードシップ・コード」である。 内容としては、「機関投資家はその投資先企業に対して対話などを通じて企業価値の向上、持続的成長を促すことにより受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任がある」という趣旨であり、 これによりGPIFをはじめとする機関投資家がESG投資を取り入れるようになった。

 さらに関連して、2015年の国連サミットで「SDGs」も採択された。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、国際社会共通の目標である。2030年までに達成すべき目標として、以下の17の目標が設定された。



 以前は、貧困削減など発展途上国に絞った目標を掲げていたため、先進国の協力がなかなか得られなかった。SDGsでは先進国も含めた包括的な「全世界に共通する」目標になっている。さらに、達成するためには年間約5~7兆ドルが必要になるという試算もあり、民間企業も「政府がやるなら自分たちもやらなければ」という機運が徐々に高まり、2017年あたりから、いろいろな企業が社の活動とSDGsを結びつけるようになってきている。

ESG投資は儲かりやすいのか

  ここまで読んでいただけた方なら、当然「ESGに力を入れている企業はコストがかかる分業績も上がりにくいのではないか」 という疑問が出てくると思う。2017年に米国で行われた調査では、ESG 投資を行っていない機関投資家の47%がESG投資によりパフォーマンスが悪化するのではないかと懸念していたというデータもある。
 
  だが、分析による結果は全くの逆である。JP Morgan の債券に関するESGのレポートによると、ガバナンスが徹底された企業は良い条件で社債を発行できるため資金調達コストが低く、将来的にはESGの取り組みが遅れている企業を上回る成長を遂げる傾向があるようだ。

 もちろん、ESGの歴史は浅いためこれから分析を続けていく必要はある。結果は未来にしかわからないため「絶対」などというつもりはないが、現時点では「市場よりも高いリターンを得るためにESG投資をする」ことは妥当と言えるだろう。

ESG投資の今後

 世界で拡大しているESG投資だが、今後はどうなっていくだろうか。年金、保険会社などの機関投資家はもちろん、近年ではヘッジファンドでも取り入れている割合は増加しているようだ。2019年7月に米国の情報ベンダーであるBarclayHedgeが世界のヘッジファンドに対して行った調査によると、2018年はヘッジファンドマネージャーの40%がESG情報を考慮しており、2019年は約60%に増える見込みだという。原因としてはヘッジファンドで運用している機関投資家からの要求が高まっていることと、企業統治の面でリスク管理の向上、環境や社会に良い影響を及ぼす企業に投資することで長期的なリターンを得やすくなるということが挙げられている。

 実は以前からSRI投資という企業の社会的責任を考慮した持続可能な経営を求めていく投資手法はある。倫理的な観点から投資対象を絞る方法で、軍需産業、たばこ産業が対象外になる等の例が挙げられる。SRI投資は、「ある特定の業種の企業」など一部の企業のみを調査するだけでよく、多くの企業が調査の対象外であったため有効な投資手法と言えず、一部で使われるのみにとどまった。しかしESG投資は異なり全ての企業が調査対象になるため、年々残高が拡大している。s

実際にESG投資をするには

 以下で、個人で実際にESG投資をする方法を見ていく。

1.ESG投資信託、ETFに投資する

 一番手軽に投資できる方法。ESGをテーマとしたファンドは数多くあり、証券会社によって取扱い商品も異なる。モーニングスターのランキング等が参考になるだろう。「ESG」で検索すると19件、「SDGs」で検索すると11件の投資信託が出てくる。詳しくはご自身でご覧いただきたいが、以下に例としてそれぞれ一番純資産の多い投資信託を紹介する。

1.日本ESGオープン

 岡三アセットマネジメントが運用。日本株の中から、独自の基準により企業のSGへの取り組みに対する評価がA、B以上の銘柄にのみ投資を行う(評価はA-Dの4段階)。加えて財務面からの評価も行っている、ベーシックなESGファンド。


2.グローバルSDGs株式ファンド

 運用会社は三井住友DSアセットマネジメントだが、実質的にはロベコSAMが運用。世界の株式に投資する。独自の「SDGs貢献度評価」と「ESGスコア」に基づき投資対象銘柄を絞り込み、個別企業のファンダメンタルズ分析により投資候補銘柄を選定している。


 他にも債券を投資対象にしたもの、米国株式に絞ったもの等が確認できた。選定方法も順序が異なったりしているため、しっかり検討することをお勧めする。

3.ESG関連ETF(上場投資信託)

 ETF(上場投資信託)については東証に21銘柄上場している。日本株を対象にした基本的なものから、一風変わったものだと「女性活躍指数」など様々なETFがある。JPXのホームページに一覧が記載されているため、資料を比べながら決めるとよい。
例として、銘柄コード1480:野村企業価値分配指数連動型上場投信(略称:企業価値ETF)を紹介する。野村アセットマネジメントが運用しており、適切な設備・人材投資などの還元政策に積極的に取り組んでいる日本株で構成されている。


2.自らESG投資先を選び、株式、債券に投資する

 株式については企業のESG情報を評価し、投資先を決定する。ある程度の知識も必要だが、簡単に各企業のプレスリリースや有価証券報告書等で確認することもできる。

 ESG関連の債券では、グリーンボンド(環境債)、ソーシャルボンド(社会貢献債)といった、使途を限定した債券が発行されている。日本電産が電気自動車のモーターの研究開発費として1000億円、商船三井が船舶燃料の排ガスの浄化に係る費用で100億円発行する等である。

3.海外のヘッジファンドに直接投資する

 1と2は国内の証券会社であればどこでも投資可能だが、このヘッジファンドだけは取り扱いしていない。ヘッジファンドの特徴や投資方法については、2019年5月30日の記事ヘッジファンドのすべて 解説~運用成績20%超高利回り商品の購入方法までをご参照されたい。

ESG投資のまとめ

 ESG投資はSDGsとともに機関投資家やヘッジファンド間で拡大しており、これからも重要な投資テーマとして利用されていくと考えられる。投資を通じて社会貢献もできる。ウォーレン・バフェット氏の投資哲学に「10年以上保有したいと考えない企業は一瞬たりとも持つべきではない」というものがある。短期でリターンを求めることは難しいかもしれないが、中長期でのリターンを狙えるESG投資は拡大の初期段階であり、裾野はまだまだ広がっていくだろう。

 新型コロナに対応して、現在各企業が協力している。シャープのマスクやダイソンの人工呼吸器、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン グループの消毒薬の提供の他、ツイッターCEOが1100億円を個人資産から寄付を行うなど、そのほか多くの企業が社会的な責任を果たしている。こうした誠実さが自然と株価の評価に加わることで、利益を得ることと、世界をよくすることが並立する世の中になることを願ってやまない。

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