運用の新常識「ブラックスワン」とは

 技術革新とともに、AIを活用したシステムトレードが運用の世界でも拡大している。アルゴリズム取引なども近年普及している取引手法だ。世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーターを率いるレイ・ダリオ氏もAIを駆使してリターンを残してきたが、コロナショックで20%以上の損失を出し投資家に謝罪した。
 統計学的には今回の暴落は1600億年に一度の確率だったが、AIに予測できない事態がしばしばおこるのが金融の世界だ。「確率論や過去の経験からは予測できない極端な事象が発生し、人々に大きな影響を与える」ことを「ブラックスワン」という。全ての白鳥が白色と信じられていたが、黒い白鳥が発見されたことで鳥類学者の常識が崩れたことが由来だ。

 相場は生き物であり、先のことは誰にもわからない。安定した運用を行うためには、コロナショックのようなブラックスワンに備える必要がある。そのための投資手法と、それを採用しているヘッジファンドがどんなパフォーマンスを残したか解説する。


目次

ブラックスワンの提唱者ナシーム・タレブ

 ブラックスワンという言葉を最初に運用業界に持ち込んだのは、認識論学者のナシーム・タレブ氏だ。1987年のブラックマンデーやリーマンショックを予測し、大儲けした。2007年の著書の中で提唱し、業界で一目置かれる存在だ。タレブ氏がブラックスワンに備えるためどんな投資戦略をとっていたか説明する。一言でいうと、

●アウト・オブ・ザ・マネーのプットオプションを買い、テールリスクに備える
 という手法だ。と言ってもオプションについて日本ではほとんど知られておらず、ピンとこないだろう。まずオプションについて説明する。

 オプションとは、「株式などを買ったり売ったりする権利」のことだ。将来取引する価格(権利行使価格)をあらかじめ決めておき、オプションの買い手が権利行使するか決定する。

 買う権利のコールオプションと、売る権利のプットオプションの2種類がある。それぞれ売買できるので、2×2で4パターンだ。損益は以下の通りになる。オプションの買い手は当初プレミアムを支払うが、損失はその範囲に抑えられる。一方、売り手はプレミアムを受け取れるが、損失の可能性は無限大だ。


 「プットオプションを買う」ということは、将来に一定の価格で株を買う権利を買うということ。期限までに株価が下がれば下がるほど利益になる。
 「アウト・オブ・ザ・マネーのプットオプション」とは、原資産価格が権利行使価格を上回っている状態のこと。プレミアムは低く、これを利用することで暴落に備えられるとタレブ氏は主張しているのだ。

テールリスクとファットテール

 相場や金融商品の値動きを予測するとき、「リターンの変動は平均リターンを軸にした正規分布に従う」と仮定することが一般的だ。例えばリターン2%の商品の値動きの確率は以下のようになり、いきなりプラス10%のリターンを出すような確率は極めて少ない。
 このグラフの裾野から、まれにしか起こらないはずの暴落・暴騰が発生するリスクを「テールリスク」といい、金融市場では往々にして発生していることからテール部分が厚くなり、「ファットテール」と呼ばれる。資産の一部をこのテールリスクのヘッジに割くのがタレブ氏の戦術だ。


ナシーム・タレブ氏のヘッジファンド

 実際にタレブ氏が顧問を務めるヘッジファンドが「ユニバーサ・インベストメンツ」だ。詳しい成績は投資者にのみ開示しているため入手できなかったが、2020年は3月末までで+4,144%と驚異のリターンを記録している。有事の際に大きく値上がりすることが証明された形になった。
 「コストを払って市場の危機に備える」のがブラックスワン運用であるため、ユニバーサ・インベストメンツは大災害に対する保険のような位置づけで見ている。資産の一部をブラックスワンファンドに投資することで、残りの部分でより積極的な運用が可能になるのだ。資産の3.3%をこのファンドに配分することで3月の暴落を抑え、同じポートフォリオでの過去のシミュレーションでも、S&P500指数を年平均で3.6%上回るパフォーマンスを残す結果が得られた。


平時でのブラックスワン運用

 「コストを払って市場の危機に備える」のがブラックスワン運用だ。必然的に、相場が順調な時のパフォーマンスは出にくい。ユーリカヘッジによると、テールリスク・ヘッジファンド指数の値動きは以下の通りだ。2017年12月を100として、今年4月までのデータを取っている。リーマンショックや欧州債務危機、コロナショックで大きくリターンを上げているが、平時ではコストによる損失がかさむことがわかる。上述のタレブ氏が顧問を務めるヘッジファンドは含まれていないが、コストをいかに抑えるかがブラックスワン運用ファンドのカギになりそうだ。


※EUREKA HEDGE より作成

おわりに

 分散投資を行うことによりリスクを抑えた運用ができるのは間違いないが、今回のコロナショックのようなブラックスワンに対してはその効果は薄くなる。資産の数%でもご紹介したブラックスワンに備えるヘッジファンドに配分することで、真の「全天候型運用」ができるのではないだろうか。

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