「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(2)

常識への挑戦


 そうした地元の常識を覆してきたのがシャトー勝沼の3代にわたる当主たちだった。とくに3代目当主の今村英勇は長年の研究により、この礫に鉄分など多くのミネラル成分が含まれていることに着目した。ミネラル成分の多いぶどうを収穫するため、無農薬・有機栽培で土壌を徹底管理した。

 痩せた土地・鳥居平のぶどうは、自分たちが生き続けていけるだけの果実のみを残そうと、花を果実になる前に振るい落とす“花ふるい”という現象を起こすという。普通は栽培する人間がやる「摘果」という行為をぶどう自身でやるのである。

 こうして鳥居平のぶどうは一粒一粒の重量が軽く、一房に付く粒数も少ない。だから生食用には向かない。しかし果汁の糖度は高く、酸味は強く、果皮に適度な渋みがあるというワイン用としては最高のぶどうが収穫できる。

 たしかにフランスやイタリアの有名なワイナリーの場所も、「斜面で小石の多い痩せた場所」だというのを本や雑誌で見た記憶がある。それだけではない。もう一つ大きな秘密がある。気候である。鳥居平地区は甲府盆地の中でも最も年間総雨量が少ない地域なのだ。

 「中央自動車道の笹子トンネルの東京寄りと反対の鳥居平側では気候が全く違う」(今村英勇)という。確かに私が取材に訪れた日も東京側は大雨だったのに、鳥居平側は嘘のように雨が降っていなかった。

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