「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(2)

よそとは濃度が違う


 美味しいワインを誕生させるぶどうには、日照時間が長いこと、雨量が少ないことが大きな条件である。それで水分吸収量が少ないため、ぶどうの粒張りが悪い一方、水分量が少なく糖度の高いぶどうができる。鳥居平で収穫されたぶどうを搾り器にかけると、他の地域で収穫したぶどうに比べ果汁の歩留まりが約10%低く、鳥居平のぶどうの濃度の高さがわかるという。

 さらにもう一つ、“笹子おろし”の存在を忘れてはならない。近くの笹子峠から吹き下ろす冷たい風を“笹子おろし”という。この“笹子おろし”により、夏は猛暑でも夜は寒いという寒暖の差が生まれる。「この温度差がぶどうの果皮を厚くし、渋味と旨味成分が凝縮するきっかけになっている」(今村英勇)というのである。


 鳥居平はぶどうの収穫期などに、台風など自然災害に遭うことがほとんどないことも大きな要素となっている。

 その70ヘクタールのぶどう畑のうち4割が生食用のぶどう、残り6割でワイン用のぶどうを栽培している。

 ○ミネラル成分豊富な土壌、○斜面で水はけのいい痩せた土地、○日照時間が長く雨の少ない気候、○“笹子おろし”による寒暖差、○ワインに適したぶどうの品種、○今村のぶどう栽培からワイン醸造にいたる技術―これら多くの要素がシンクロすることによって『鳥居平』は誕生する。「天の時」(気候・風土)「地の利」(土壌)「人の和」(技術)のすべての条件が揃わないと不可能なのである。そうした意味では、極上のワインのために神が与えた奇跡とでも言うしかない。鳥居平が「黄金の丘」と称される所以である。

 2007年に訪問したとき、『鳥居平1969年』はフルボトル1本が10万円すると言われた。38年経っていた。鳥居平のワインがすべてこのようなワインになるわけではない。このようなワインをヴィンテージワインと呼ぶが、何が違うのか。それは次回。(文中敬称略)
◆バックナンバー(第1回)「『鳥居平』との出会い」

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