よそとは濃度が違う
さらにもう一つ、“笹子おろし”の存在を忘れてはならない。近くの笹子峠から吹き下ろす冷たい風を“笹子おろし”という。この“笹子おろし”により、夏は猛暑でも夜は寒いという寒暖の差が生まれる。「この温度差がぶどうの果皮を厚くし、渋味と旨味成分が凝縮するきっかけになっている」(今村英勇)というのである。
その70ヘクタールのぶどう畑のうち4割が生食用のぶどう、残り6割でワイン用のぶどうを栽培している。
○ミネラル成分豊富な土壌、○斜面で水はけのいい痩せた土地、○日照時間が長く雨の少ない気候、○“笹子おろし”による寒暖差、○ワインに適したぶどうの品種、○今村のぶどう栽培からワイン醸造にいたる技術―これら多くの要素がシンクロすることによって『鳥居平』は誕生する。「天の時」(気候・風土)「地の利」(土壌)「人の和」(技術)のすべての条件が揃わないと不可能なのである。そうした意味では、極上のワインのために神が与えた奇跡とでも言うしかない。鳥居平が「黄金の丘」と称される所以である。
2007年に訪問したとき、『鳥居平1969年』はフルボトル1本が10万円すると言われた。38年経っていた。鳥居平のワインがすべてこのようなワインになるわけではない。このようなワインをヴィンテージワインと呼ぶが、何が違うのか。それは次回。(文中敬称略)
◆バックナンバー(第1回)「『鳥居平』との出会い」