破綻するブラック企業の楽しみ方(1)

第一回 訴訟に反発して、社長も社員も「WIN-WIN」を連呼

 会社が破綻へとむかうプロセスで、社内で発生する様々な出来事には、それゆえに破綻したのかと思わざるをえない内容も多い。社員は何を思い、会社にどう関わったのだろうか。破綻の発端から結末までを辿っていく――。   (経済ジャーナリスト・浅川徳臣)

すべては新聞のベタ記事から始まった


 それは、終わりの始まりかもしれない。社業の致命的な欠陥が報道されれば、一部の理性ある社員は前兆としてそう受け止めるが、役員たちは頑迷に問題を直視しないことがある。自己否定されたような心境になるのだ。

 2年前、ある日用品チェーンをめぐるベタ記事が全国紙に掲載された。このチェーンは販売代理店方式で店舗を全国展開していたが、本部のずさんな経営指導が原因で業績を悪化させたという理由で、複数の代理店が本部に対して、損害賠償請求を集団で提訴した。そんな内容の記事だった。掲載当日は偶然にも本部で全社朝礼が開かれ、社長は記事に言及せざるをえなかった。

 「訴訟に至ったことは残念ですが、とくに代理店経営者がレベルアップをするために代理店サポート部のメンバーが誠実に対応するなかで、それに向き合うことなく、騒ぎを大きくしようとする集団の加わったことが残念でなりません。現在も収益を改善しようとして懸命に努力されている他の代理店への影響もはかりしれず、残念でなりません」

 事実関係の調査や、社員に与えた動揺への謝罪と反省は口にせず、「残念」を繰り返すだけだった。そして「残念」で締めくくった。

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