破綻するブラック企業の楽しみ方(2)

具体策がないと精神論に走る

 契約社員や派遣社員を含む全社員にむけて、新規事業を担当する事業開発部が事業企画を募集するメールを配信したのだ。「ボトムアップを装っていましたが、時期が時期だけに、苦し紛れの行為であることは見え見えでした」(元幹部社員)という。

 愚行は愚行を呼んだ。一部の役員が担当部門の提出件数を競い合ったのである。ある部門では部門長が「ひとり当たり5件を提出しました」と報告したメールに、役員が全部員をCCに入れて「件数が少なすぎます!各自10件以上を提出して当然です。使命感が足りないのではないでしょうか!」と返信した。

 この会社は「我が社のミッション」として「人々が感動を共有できる生活の実現に貢献する」を掲げていた。部門長は、こうした局面で社内の慣例となっている「申し訳ございません」という枕詞で謝罪メールを送信した。「未熟者で認識が足りませんでした。全員で使命感を共有して再提出させていただきます」。

 質よりも量が求められれば、数合わせに走る社員も現われる。ある若手社員は自宅近くの商店街の20店をリストアップし、各店を「代々のノウハウを標準化して、昭和テイストの個人店チェーンを展開する」という企画に仕立てあげた。そして理髪店、精肉店、鮮魚店、豆腐店、惣菜店、クリーニング店、喫茶店などを列挙して、20件の企画を提出したと報告したのだった。

 こうして収集した情報から、事業化された案件は1件もなかった。業績回復の具体策が見出させないと、理念や行動基準を突きつけた精神論に走るのが内向性の強い組織の常で、これが集団心理となって社員たちをむしばんでいった。
◆バックナンバー(1)

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