第三回 長時間労働に反発して発足した労組に、会社側が白旗!
凋落する企業が精神論に盲進するのは、いまも昔も共通した光景である。精神論の軸をなすのが理念や行動基準で、ある中堅WEBマーケティング会社は深刻な業績悪化にともない、理念と行動基準を「社内の共通言語」と称して、朝礼で唱和するようになった。 (経済ジャーナリスト・浅川徳臣)
心地よい言葉の響きが月300時間労働を支える?
そして事業計画の発表会などで、各部門のマネージャーがスクリーンに映し出されるパワーポイントの表紙に、我も我もとこの言葉を書き込んだ。発表のしめくくりに「いざ、疾風へ」とか「われら疾風のなかの勁草たらん」などと陶酔して声高に口にするマネージャーもいた。
何かの言葉にすがって刹那の安心を得たい。その不安心理が言葉に触発され、高揚感を引き起こしていたのだ。それだけ彼らが追い詰められていたのは、業績の凋落だけでなく就労環境にも大きな問題があった。
本人の能力以上の仕事を与えつづけることが、短期間での成長を促す。この教育方針が、いつしか長時間労働を美徳とする価値観にゆがめられ、この会社では、月間労働時間300時間以上があるべき社員像の基準となっていた。
労働基準法? それが、どうした。ワークライフバランス? それが、どうした。寝食を忘れ、休日を返上して働いてこそ、世のビジネスマンを凌ぐスピードで成長できるのだ。我が社ほど成長できる環境にあふれた会社は存在しない。そうした信仰にも近い就労観が根深く定着していた。