1億円で売るより裏から5000万円もらう
田中はバブル期、地上げ等で成り上がった不動産関係の紳士の顧問弁護士も数多く務め、脱税の弁護をした。脱税ではなく経費だと証明するため、裁判所、検察庁、国税局が認めるような理屈を考えた。
「マンションの立ち退き料として、ヤクザ等の人たちに払いました」
バブルの頃は1億円で土地を売っても所得税と住民税を合わせて、7割ぐらいは取られる。そこで裏社会の人間は「5千万円でいいから裏からくれんか」という話になる。
「取り調べのときに本当の事情を話したら、受け取った人に迷惑が掛かります。でも裁判では本当のことを言います。脱税したわけやない。真実に基づいて裁判をお願いします」
検事時代は「そんな嘘が通ると思ってんのか!!」と追求した田中だが、被告人の有利を最優先する弁護士だ。ときには行方の知れないヤクザの名前を出して、「この人に渡したんです」といえば、金の行方は分からない。
「真実というより、話の辻褄が合っているかどうか、その辻褄にどれほどリアリティがあるか。脱税事件の裁判なら検事の考えている以上のことを言って、裁判官が納得する経費をいかに巧妙に作っていくか。そこが弁護士の腕のみせどころだ」
ちなみに日本の裁判は9割9分まで求刑は覆らない。脱税事件も田中が無罪判決を勝ち得たのはごく稀であることは言うまでもない。