富裕層の子供時代、落ちこぼれはいない? 「新・日本のお金持ち研究」(富裕層本書評2)

 日本の出版業界で年間で約8万点発行される書籍の中で、富裕層に関する書籍も新たなジャンルとして注目されるようになった。「ゆかしメディア」がその富裕層本の書評を行う第2弾は、「新・日本のお金持ち研究」。国税庁の高額納税者名簿を基本資料に加えて、独自の調査で迫ったオーソドックスな富裕層研究本で、富裕層の特徴を最大公約数的にとらえているのが特徴だ。

小中学校時代は~

 2005年まで国税庁が公表していた高額納税者名簿を基にして、それに独自の調査を加えた富裕層調査が「日本のお金持ち研究」(2005年)だ。それを加筆して編集しなおしたおのが、今回取り上げる「新・日本のお金持ち研究」になる。橘木俊詔氏(同志社大ライフリスク研究センター長)、森剛志氏(甲南大学経済学部教授)の経済学者2人による研究だ。

 本書は文庫本だがテーマの範囲が広いため、多くの人が興味を引きそうなところをかいつまんでみる。2氏の研究領域が富裕層も含めた社会階層でもあるため、そうした要素も強いが、ここでは富裕層の面だけに絞る。まず、富裕層が一般の人よりもお金をかける傾向にあるのは、子供の教育だが、やはり、ここにひじょうに面白い特徴が出ている。

 まず、富裕層の子供時代だが、単刀直入に言えば、やはり頭がよく学校の成績も良かったのだ。

 2氏が行った高額納税者を対象にした独自調査「第三回高額納税者調査」の結果が報告されている。これは、小学校高学年、中学校と成績を5段階評価(下のほう、やや下のほう、真ん中、やや上のほう、上のほう)に分類して質問しているが、その答えが「やや上のほう」「上のほう」に著しく偏っているのだ。

 例えば小学校高学年は男性でこの2要素が77.8%、女性は同様に91.5%だった。これで言えることは、小学生時代に落ちこぼれていては、富裕層になることさえままならないのだ。「地頭の良さ」は必ず必要だということだ。ちなみに、同調査では、小学校高学年時代に、算数が好きか嫌いかをたずねたところ、「嫌いだった」と答えた人はごく少数だったそうだ。

 仮に学歴と成功の相関関係が薄い経営者に限っても、やはり数字の感覚がない人ではできない。学歴はなくとも、地頭が必要だということがわかる。

学習で「マナーが身に付いた」

 ちなみに、年間授業料だけで、2000万円以上使う家庭が1.37%、1500~2000万円未満が3.09%、1000~1500万円未満が4.80%だった。もちろん、医学部なども含まれていたり、欧米の名門ボーディングスクールなどに通わせているのだろうか。

 さらに、学校以外にも塾通い、家庭教師など学習にお金をかけていた比率も高くなっている。約48%が子供の習い事への出費が月あたり10万円以上の富裕層は約47%となっていた。

 それらの教育で現在でも役に立っている点として、これは少し意外な印象を受けるが、知識・技能の習得や、人間関係の形成よりも、「社会的マナーが身についた」と答えた人が多かったのだ。実際には、習い事によって知らぬ間に、社会性を身につけているということなのか。

 調査対象者が、セルフメイドで富裕層になったのか、親が富裕層だったのかまでは、本書の記述ではわからない。ただし、富裕層でなくても教育に熱心な家庭は多く存在しており、そうした家庭の中から新たな富裕層が生みだされる下地も形成されているようにも感じられる。

 「教育=相続」という結びつきもある。やはり資産はどこにでも持ち運べないが、頭脳やマインドはどこにでも持ち歩くことが可能。資産を継承しても、それにふさわしい人間でなければ、金に狂うだけだからだ。

 その他にも「株式投資か不動産投資か―お金持ちの資産運用」「お金持ちは格差をどう感じているのか」など興味を引くチャプターもある。

著者:橘木俊詔
小樽商科大学商学部卒。
同志社大学経済学部教授、 内閣府男女共同参画会議議員。

森剛志
早稲田大学政治経済学部卒業、京都大学大学院博士課程修了。日本学術振興会会員を経て、甲南大学経済学部教授。

【富裕層本書評シリーズ一覧】
富裕層の半分は高級住宅地に住んでいない「となりの億万長者」(富裕層本書評1)
富裕層の増加は2割どころではなかった「富裕層はなぜ、YUCASEE(ゆかし)に入るのか?」(高岡壮一郎著)(富裕層本書評3)
「金持ちは税率70%でもいい VS みんな10%課税がいい」(富裕層本書評4)
「金持ちが確実に世界を支配する方法」(富裕層本書評5)

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