非常に大きな反響を呼んだ「シリーズ富裕層のお金の哲学」この内容を、より深めていきたい。
シリーズ1「お金は賑やかなところに集まる」
シリーズ2「お金持ちかは「ゴミの出し方」でわかる」
お金と幸せに関する興味深い研究結果がある。2002年にノーベル経済学賞を受賞した米国プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン教授によると、幸福感は年収7万5000ドル(約900万円)までは収入に比例して増えるが、それを超えると頭打ちになるというものだ。
カーネマン教授の研究に則って考えると、年収が900万円でも3000万円でも、1億円でも感じられる幸福はそれほど大きく変わらない、ということだ。
確かに稼ぎの額が上がるからといって、幸福度が増すとは言えないかもしれない。むしろ稼ぐ人はそれなりの地位に就き、課される責任も増えるなどストレスやプレッシャーも多くなっていくと想像できる。
では富裕層といわれる人たちは、苦しい人生を歩んでいるのだろうか?「幸福」や「不幸」についての研究をしている精神科医の樺沢紫苑氏に話を伺った。
「稼ぐ」は「幸せ」をもたらさない
「社会的に成功している人は、幼少期に苦しい体験をした人がたくさんいます。ものすごく貧しい環境に育ったとか、親の顔を見たことがないといったものです。
『貧困の連鎖』という言葉があります。貧困家庭に生まれた子供はそのまま貧困を引き継いでしまうというものです。いわば周りの苦しい状況に飲み込まれてしまうのですね。
一方で、その苦しい状況をバネにして成功する人もいます。『親のようにはなりたくない』『こんな暮らしはいやだ』と奮起し、その状況を変えようとするのです。苦しい体験から成功者になった人は、みなさん後者です。
そんな苦しい状況にあった人たちが、成功の1つの基準とするのが『お金』です。
心理学者マズローの「欲求5段階説」によると、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が充たされると、より高次の階層の欲求を欲するとあります。
詳しいことは割愛しますが、1つ目の『食べる、飲む、寝る』など生きていくための基本的・本能的な欲求が充たされると、2番目に安全・安心な暮らしがしたいと思うようになり、それも充たされると、3番目、仲間が欲しくなるようになる。
その次、4番目に求めるのが「尊厳欲求(承認欲求)」他者から認められたい、尊敬されたい気持ちです。
どのくらい認められたか、尊敬されたか。そのバロメーターの1つになるのが、お金です。『いくら稼いだ』は金額で出るので、稼ぎの額=どのくらい成功した、認められ尊敬されたかを表すものと言えるでしょう。お金は社会的な成功を表す、非常にわかりやすいものです。
『幸せになりたい』と思って頑張っても、何をもって幸せになったかはわかりません。計れるようなものではないからです。お金は『これだけ稼いだのだから、きっと幸せになったはず』という判断基準になります。
しかし、『稼ぐ』を目標にしていると、満足は決して訪れることはありません。人の欲望に限りはなく、上には上がいるので、『いくら稼いだから満足』とはならないものです。
先ほど『稼ぎと幸福度は一定額を超えると同じになる』という研究結果をお伝えしましたが、私はそうとは言えないんじゃないかと思っています。ものすごく稼ぎがあって、幸せそうな人もたくさんいるからです。むしろ本当にお金を持っている人のほうが幸せそうに思います。
それは“お金の奴隷になっていない”からなのかと思います。
面白いもので『稼いでやる、儲けてやる』と思っているときに稼げる額には限りがあり、本当に稼いでいる人は『稼いでやろう、儲けてやろう』とは考えていないものです。
言いかえれば、お金を目的に働いているのか、それ以外かということになります。本当に稼いでいる人たちは、お金を目的にしていません。『どうすれば人の役に立つか』『社会をよくできるか』という発想で働いています。どちらが先かはわかりませんが、だから稼げるのは間違いありません。
『お金があれば幸せになれる』と思って稼ぐ人は、マズローの5段階で言うと4番目の段階で、いわば自分のために稼いでいるんですね。
本当のお金持ちは、自分のためを超えて行動しています。