オークラ支配人の教える、ホテルの上客になる方法

ホテルは特殊な場所ではない

 では「よくない客」はどんな客だろうか。
「よくない、と言うと語弊がありますが、先ほどの“常識”に関連してお話しすれば、ホテルオークラで提供したサービスをほかのホテルで『オークラはやってくれたからこのホテルでもやってください』と要求されるお客様に、同じことはできないかもしれません。

 逆もまた同じで『あのホテルがしてくれたこういうサービスを、オークラでも頼む』と言われても対応できかねるものもあるでしょう。ホテルによって“常識”が異なるからです。


発売された石原直氏の著書
 ホテルオークラには次のようなルールがありました。
『ほかのお客様に迷惑をかけたり、働いている者を見下したり、ばかにしたりする人は客ではない』
 私は支配人時代、このルールに基づいて2度、お客様にホテルから退去してもらったことがあります。
 退去までお願いしたことは2度だけでしたが、ほかのお客様にご迷惑にならないように、はホテルが気をつけている点です。

 たとえばホテルオークラでは毎月25日に無料のロビーコンサートを主催しており、あるメーカーとタイアップして、コンサートにお見えのお客様にシャンパンをお出ししたときがありました。
 そのときに、ものすごい量のシャンパンをおひとりで飲まれる方がいらっしゃったので『ほかのお客様にお楽しみいただく分がなくなってしまいますので』とそれ以上はご遠慮いただきました。

 高級ホテルはドレスコードがあったりと、堅苦しいところとお考えの方もいらっしゃいますが、服装に気を使うことは、その場にいらっしゃる周りの方々への気遣いです。
 その場所には『ふさわしい恰好』がありますので、それを逸脱すると、場の雰囲気に影響してしまいます。
 それは周りのお客様に対してもですが、ご自身も決してご気分がよろしくないと思います。

 そのような格好は避けていただくことが、周りの方であり、ご自分のためでもあります。ホテルはあくまでも服装のおすすめをしているだけです。

 このようなことを申し上げると、ホテルがお客様を差別しているようで恐縮ですが、サービスを受ける、提供するという関係はあくまでも対等と私は考えます。

 手前味噌で恐縮ですが、ホテルオークラは1962年の開業以来、『よいサービスを受ける』ことに慣れている人たちが経営者を務めてきました。
 商社や銀行などの出身で、客として日本だけでなく外国のホテルを利用する機会の多かった人たちです。

 彼らの教えや考え方から学ぶことは本当に多く、後に総支配人を務めさせていただいたときに大変役立ちました。

 ホテルは決して特殊なところではありません。高級なお寿司屋さんなどで、お客様が大将に気を使って会話もできない、といった状態はホテルにふさわしくないと考えています。多くの方に、気軽にご利用いただきたいと思っています。

『このホテルの“常識”は何だろうか』を知り、そのうえでどんどんお客様にはご要望をお聞かせいただきたいですね。
 私たちもよりご満足いただけるサービスを提供できるようになり、ホテルでの時間をより快適なものにしていただけると思います」

1 2
よかったらシェアしてね!
目次
閉じる