90年代に大きく規模を拡大したものの、時代の変化に対応しきれず解散した「タイガー・ファンド」(前半記事はこちら)。
だが創業者のジュリアン・ロバートソンは多くの弟子を育てた。
2010年代、「子虎」と呼ばれるその弟子たちがヘッジファンドのトップの世界で活躍していることから、ロバートソンが再評価されている。
なぜ多くの弟子を輩出することができたのか? 理由は大きく分けて2つある。1つは、ロバートソンの手法が伝承可能なものだったことだ。そして弟子たちが一定の成果を出せば、それに対し相応の報酬を支払った。
また、アメリカ南東部出身の温かみのある感じな彼の人柄は、人を引き付ける。多くの投資家だけでなく、弟子もまた、ロバートソンに賭けてみようと思わされるのだ。そして結果を出した者に、報酬を与えるだけでなくしっかりほめる。
ゆっくりとした、朴訥な感じの話し方で「すばらしいアイディアだ」と称賛する。
一方で、ダメなものについては、氷のように冷たい声で罵倒する。アメとムチが、弟子たちをやる気にさせるのだ。
弟子たちの活躍を見てみよう。
リー・エーンズリーはロバートソンの忠実な弟子の1人だ。
93年に自身のファンドを設立するまでは、タイガーマネジメントのマネジメントディレクターとして3年間働いた。自分のキャリアはロバートソンとタイガーのトレーダーたちの影響を受けていると考えている。
「ジュリアンからは誠実という人生の教訓を与えられ、信望の重要性を教えられた」と語る。
師の重要視したファンダメンタルズを同じように重視し、徹底的な研究を行う。企業を訪問し、経営幹部と話をし、キャッシュフローを分析している。
様々な業種と強固なつながりを作り、それらの業種の強みや弱みを理解している。
ポートフォリオは約250のポジションに分散し、そのときのベストアイディアを考慮し判断していく。
1994年に開かれたパートナーミーティングにはジョージ・ブッシュ元大統領も招待するなど、会社は大きな存在感を放っている。その当時、6000ドルの資産を管理していた。
ファンダメンタルを重視しているところなどは、師の方法を踏襲していると言えるだろう。
エーンズリーのファンドは今やすっかり大きいが、的を絞った小規模ファンドの集まりのため、敏捷性を維持することができるという。
ITで勝ち進む「タイガー」
師と異なるアプローチを習得した人もいる。
タイガーグローバルを創業したチェース・コールマンは、名前からもわかるとおりタイガー・ファンド出身だ。名前は近いが師のロバートソンと異なり、師が苦手としたIT銘柄の投資を大得意としている。
アップルの株を約230万株保有し、大きなリターンを得た。ベンチャーキャピタル(VC)としても存在感を増しており、イギリス調査会社プレキンによると、タイガーグローバルはアメリカを拠点とする企業にフォーカスしたVCファンドの額では、ニュー・エンタープライズ・アソシエイツに次いで2位となる95億ドル。
さらには、いわゆるすぐに使うことができる手元資金のドライパウダーは、46億ドルで1位となっている。民泊仲介サービス「Airbnb」などに出資している。
今後さらなるリターンを生んでいく余地もある。
タイガーグローバルは2011年のヘッジファンド業界のリターンランキングで45%を記録して1位に輝いたこともある。
コールマンは当時36歳の若さで業界1位となり、また、2014年の業界報酬ランキング(フォーブス版)では、11位で3.8億ドル。また、同社ナンバー2のフェルツ・デュワン氏が18位で2億ドルだった。
コールマンは2011年のリターンで名をあげると、上場前から保有していたフェイスブック株も上場後は大きなリターンを叩き出すなど、いわゆるユニコーンを探す時流に乗り始めた。
同社の最近の主なVCファンドには次のようなものがある。
・タイガーグローバルパフォーマンス 約31億ドル 2014年~
・タイガーグローバルプライベートインベストメントパートナーズ 25億ドル 2015年~
・タイガーグローバルロングオポチュニティーズ 約6億ドル 2014年~
業績好調なアマゾンの株を増やし、タイガーグローバルは、319万株(16億ドル)まで買い増しを行っている。
史上最大規模の上場となった中国電子商取引最大手アリババグループの株も、上場時にタイガーマネジメントは121万株、1億806万ドル相当を保持したとされた。
ほかにもIT分野での躍進は続き、フェイスブック、リンクトイン、ツイッターの新規株式上場によって大きなリターンを得ている。
また、調査レポートでは触れられていないものの、同社はインド、中国のITスタートアップ企業への出資にも熱心に取り組んでいる。
アメリカ以外でも、中国の自動車予約サイトのビットオートホールディングス、インドのインターネット掲示板Quikrなど成長企業にも投資しており、今後は新興国発のITスタートアップ企業への投資を積極的に行い高いリターンを狙っていくものと見られる。
さらなる子虎
タイガー・マネジメント出身のデービッド・スノッディが率いるアジア投資のヘッジファンド会社は、アメリカの投資家から資金を集め運用資産が20億ドル(約2200億円)を超えた。
スノッディはかつてロバートソンのタイガー・マネジメントの東京オフィスを統括した後、2000年に自身のネズ・アジア・キャピタル・マネジメントを設立。10年にニューヨークに移り、ロバートソンを含めたアメリカの投資家から資金を集めたとされる。現在は運用者12人を抱え、日本でのライセンス取得を目指している。
ネズの主要ファンドはネズ・アジア・ファンドやネズ・マスター・ファンド、ネズ・ジャパン・ファンド、ネズ・シクリカルズ・ファンドなどで、いずれもロング・ショート戦略で運用する。
スノッディはフリーキャッシュフローによって自社成長を賄える企業に投資する「グロース・アット・リーズナブル・プライス(GARP)」というアプローチを選好している。
ネズ・アジアの本部は香港にあり、シンガポールにも拠点を持つ。日本とのつながりは深く、ネズの名称は最初に東京に開いたオフィスに近い根津美術館に由来するという。
ヘッジファンドからは引退したロバートソンも、北米と欧州でインフラに投資するプライベートエクイティ投資会社を設立するなど活動を起こしている。フォーブスの2014年報酬ランキングによると、ロバートソンの資産は37億ドル(約3700億円)に上る。
関連記事
・ヘッジファンドのすべて 解説~運用成績20%超高利回り商品の購入方法まで
・ヘッジファンドマネジャー列伝 完全版
本記事の完成版はこちらでご覧いただけます。