先日発表されたQS世界大学ランキングで17位にランクインしたイェール大学だが、優れているのは教育機関としてだけではない。大学の資金を運用する機関投資家としても非常に優秀な成果をあげている。
過去10年間の年平均リターンは11.1%であり、赤十字社や年金基金などをメインとする運用会社、ケンブリッジ・アソシエイツの調査でもランキング1位の運用成績を度々残している。この理由はどこにあるのだろうか。
イェール大学基金として管理する資金は2001年には107億ドルに過ぎなかったが昨年300億ドルを超え、20年弱で資金を3倍近くに増やしている。毎年のようにプラスのリターンを残している。過去30年の年平均リターンは12.6%、シャープレシオは1.85と「低リスク・高リターン」な運用が最大の特徴だ。
2000年以降で年間の運用成績がマイナスになったのは2009年の1回しかなく、凄まじい安定性を誇る。なお運用成績がプラスでも残高が減っている年があるのは、大学の運営などに資金を使っているためだ。
機関投資家の中でもトップクラスの成績を残すイェール大学基金。リターンの秘密を探っていこう。
ヘッジファンドがポイント。イェール大学のポートフォリオ
2019年と1997年のポートフォリオを比較してみよう。ヘッジファンドの割合が一番高いことが共通点だ。相違点としては株式と債券の割合を下げ、新興企業に投資するベンチャーキャピタルや逆に成熟企業を買収して非上場化するレバレッジド・バイアウト(LBO)など、プライベートエクイティ投資を拡大していることが分析できる。
上場株式・債券といった伝統的な資産から、新しい投資対象であるオルタナティブ資産へのシフトが起きているのだ。その理由は何か?
答えは、同じリスクで比較すると、新しいオルタナティブ資産を入れたポートフォリオの期待リターンが高いためだ。歴史が浅く、市場参加者がまだ少ないため市場の効率性が低い。歪んだ価格が適切な水準に戻る動きを利用することで、高い収益を得ることができるのだ。次に、ポートフォリオ構築の方法を解説する。
イェール大学の投資戦略
投資判断は、ノーベル賞を受賞したトービン氏の開発した伝統的なポートフォリオ理論、平均分散分析に基づき様々な資産のリスク・リターンのシミュレーションを行うことで決定されている。
構造の変化を認識し市場の流動性や出来事の要因を組み込むことは非常に難しいが、イェール大学は定量分析と市場判断を組み合わせることで、最終的な資産配分を決定している。また、投資対象の選択も上手い。イェール大学とインデックス(パッシブ型とアクティブ型)を比較すると、過去10年間ほとんどの資産でインデックスを上回る結果となった。
更に、イェール大学には伝説的なファンドマネジャーが居るのだ。
「イェールのバフェット」デイビッド・スウェンセン
その投資成功率の高さから「イェールのウォーレン・バフェット」の異名を持つのが、イェール大学基金CIO(最高投資責任者)のデイビッド・スウェンセン氏だ。同氏が運用を開始した1985年の資産は約10億ドルだったが、それ以来年率10%超の圧倒的なリターンを残している。
大学基金は寄付金で成り立っているため、将来出資者に返還する必要がない。その特徴を活かした運用方法、「エンダウメント投資戦略」をゼロから作り上げた人物だ。
エンダウメント投資の最大の特徴は、超長期目線での運用にある。少なくとも10年、20年~30年単位での運用を前提としている。市場の動きに過剰反応せず、頻繁な売買を避けることで効率的な運用が実現できるのだ。優れたファンドマネジャーと抜群の分析力を武器に、イェール大学は機関投資家として長期に渡り世界を牽引する活躍を続けてきた。
では、個人投資家がイェール大学の運用を採り入れる方法はあるのだろうか。資産規模が全く異なるため難しいと思われるかもしれないが、部分的に真似することは可能だ。以下で2点ご説明する。
①超長期目線での資産運用
簡単に真似することができるのが、超長期を前提とした運用だ。老後に向けて資産形成を行うと考えれば、途中の値動きに一喜一憂せず何十年単位での効率的な運用ができる。そのためには頻繁に売買せず、成長する資産に投資し続けることが必要だ。まずはこちらの図をご覧いただきたい。
金融庁がまとめた、投資信託の平均保有期間の推移だ。回転売買により手数料を稼いできた金融機関の姿勢が顧客本位ではないと問題視され、保有期間が伸びてきていることがわかる。日本でも、徐々に長期投資が認められつつある。
なお、超長期投資では積立て投資も効果的だ。(詳しくは「損しないための積立投資」)
②個人投資家も投資できるヘッジファンド
イェール大学基金が一番多く投資しているのがヘッジファンドだ。絶対収益を追求するヘッジファンドは、1990年に機関投資家として初めてイェール大学が採用した。今でこそヘッジファンド運用は当たり前になり、他の大学など教育基金は平均で20.6%を投資しているがイェール大学は23.2%と多い水準にある。
イェール大学が投資しているヘッジファンドの戦略は、大きくわけて2つだった。企業の合併・買収などのイベントによる株価変動を利用するイベント・ドリブン戦略と、割安な資産を買い割高な資産を売るバリュー・ドリブン戦略だ。市場の値動きとはほとんど相関がなく、過去20年の平均リターンは8.8%と高い。リスクヘッジと収益を稼ぐという2つの役割をこなす資産として、ヘッジファンドを最大の投資対象にしている。
インターネットの発展により、個人投資家も少額からヘッジファンドに投資できるようになってきている。購入方法などについては「ヘッジファンドのすべて 富裕層の投資の解説~運用成績10%超高利回り商品の購入方法まで 2020年最新版」をご覧いただきたい。
おわりに
世界トップクラスの機関投資家であるイェール大学基金の運用戦略は、株式や債券といった伝統的資産を中心とした運用からオルタナティブ資産中心の運用へシフトすることで年率10%以上のリターンを残してきたことが明らかになった。
投資環境、商品が変わればポートフォリオも変わるのは当たり前だが、今も昔も変わらず最も高い比率を占めるのはヘッジファンドである。エンダウメント投資で個人投資家も取り入れることができるのは、超長期目線での運用とヘッジファンド運用だ。読者の皆様の資産運用の一助になれば幸いだ。
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