20キロ圏内から大脱走を始めた「原発村」のペット

受難の山越え


飼い主を失ったペット(福島県双葉町)
 現地には、いくつかの動物ボランティア団体が入り、動物の身柄を確保したり、飼い主の依頼を受けて食糧を与えるなどしているが、まだまだ手が行き渡らずに不十分なのだという。20キロ圏内の険しい状況を、現地で被災動物の世話をするボランティア、社団法人「SORA」の山中隼人さんが説明する。

 「人を警戒して寄ってこない動物や、また集団行動して野生化してしまうとボスを中心に人間を警戒するようになります。それでもエサを食べている動物はいいのですが、衰弱している動物も多いです」

 また、震災後には「せめて自由が利くように」との好意からクサリを外された犬や猫たちも多い。主人や食べ物を探してさまよったり、あるいは中には山越えをするモノも出てきているのが現状だ。

 山中さんは「我々もすべてのペットにケアが行きとどかないのが現状です。(20キロ圏内は)車が通行できる状況ですので、中には、山を越えて遠くまで行く犬がいても不思議ではありません」と話した。

 筆者が最後に出会った犬は雑種の兄弟らしく、人の顔を見ると近寄ってきた。おそらく食べ物をくれると直感的に感じたのだろう。食べ物と水を与えると一気に胃の中に入れた。よほど空腹であったと見える。食べ終わると、どこを目指すのか道なりに市街地の方へ歩いていった。しかし、2匹ともびっこを引いており、疲労が顕著で長い距離を歩いてきたことをうかがわせる。

 大脱走というより、まさしく受難とも言うべき現象。まだまだ人による助けの手が足りないという現状を物語ってもいるようだ。

1 2
よかったらシェアしてね!
目次
閉じる