【悪役になったアノ夏2】“ハラ切り監督”最後の夏

社会に出てもレギュラーを取れよ

 野々村監督は国立大学を卒業した、美術教諭なのだ。実はインテリでアーティスティック。これが記者評。美術の教諭で、警察学校でも似顔絵を教えたりする地元では「ピカソ」の異名を取る存在でもある。

 取材の際でも、派手な発言はしないものの、記者の質問を聞きじっくりと考えて言葉を選ぶように誠実に受け答えをするのだという。袴姿について質問が出ても「正装だからです」とまじめに答えるのが野々村監督なのだ。

 そして、最も長い時間をともに過ごし、薫陶を受けてきた選手たちが最も監督をよく知っている。選手たちに監督のことを好きかどうか、どんな人か、という質問もよくあったそうだ。

 監督のことを「最初は恐かった」という声もあったそうだが、選手たちはみな愛情を感じて巣立っていくのだという。

 卒業する選手全員に似顔絵を描いた色紙を渡すというエピソードはよく知られるが、あるOBは「社会に出てレギュラーを取れ」と声をかけられたそうだ。

 プロに進むわけでもなく、受験勉強の時間を野球に捧げた選手たち。甲子園出場という栄光だけで飯は食えない。そうした厳しい社会に飛び込んでいく選手たちにとって、これ以上にうれしい言葉はないだろう。

 選手たちのことを本当に考えているからこそ、出た激励。ビジネスライクな監督もいる一方で、野々村監は根っからの教育者なのだろう。

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