奇跡を起こせなかったUBSトレーダー

左うちわで1兆円くらい入った

 UBSをはじめ、スイスの金融機関と言えば、堅い守秘義務で知られ、国賓級をはじめ多くの富裕層マネーを呼び込んだ。そのため「何もしなくても、口座を維持しておくだけで、年間で1兆円くらい入る、と言っていた時代もあります」と元UBS社員は話す。

 左うちわの時代は突然、終わりを告げた。2001年9月11日に起きた米同時多発テロ。世界中のテロマネーを暴くことに米国が躍起となったために、いとも簡単にスイスの金融界が守ってきた伝統は崩れ去った。


警察に連行されるクウェイク・アドボリ容疑者
 時代が変わるならば、UBSも変わらざるを得なくなった。草食系スイスの銀行は肉食系の要素を取り入れて「他から収益を幅広く、そして手っ取り早く稼がなければならなくなり、それならトレードがいいし、あとは合併も進めたせいで純粋な草食的な企業文化というのも失われている」という。

 戦場であるトレード部門の増員の一人に、アドボリ容疑者も配属された。しかし、容疑者はフレンドリーな性格で、一部の報道では、パーティーをした翌日に、隣人に対して騒がしくしたお詫びの印として高級シャンパンを持って行ったという出来事もあったそうだ。このエピソードからは、それなりに気遣いのある青年だという印象を受ける。

 「ロスカットを徹底できなかったんだろう。それに性格的に向いていないのかも」(業界関係者)という言葉がさみしく響く。気持ちがやさしいだけでは相場を勝ち抜いていくことはできない。

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