破綻するブラック企業の楽しみ方(6)

第6回 社員が再建会議で提案した役員刷新案

 業績悪化で人心が荒廃しつつある企業で、綱紀粛正を図ろうとして管理強化にのぞんでも、多くの場合は面従腹背を避けられない。ふだんから人心を掌握し、いわば同志の集団を形成していればまだしも、人望を得ていない経営者や幹部が凡庸な言葉を並べ立て、やれ理念だ、ミッションだ、想いだと唱えつづけたところで、社員の心には落ちてこない。(経済ジャーナリスト・浅川徳臣)

社長の涙の訴え

 ある中堅広告代理店は2期連続の赤字決算を受けて、全社員を集めて決起会を開いた。社長は壇上で涙を流して再起を訴え、会の最後には全社員が拳を突き上げて檄を飛ばしあったが、全社一丸の求心力は生まれなかった。実力主義人事のもとに社員を消耗品のように使い捨ててきたため、相当数の社員が当事者意識を失い、経営危機を対岸の火事のように傍観していたのだ。

 社長の涙に胸を打たれた社員も少なからずいたが、多くの社員に奮起を促すことはなかった。「年がら年中、社員を怒鳴り散らしていたので、感情の起伏が激しい人なんだなあという程度に受け止めた社員が多かったようです」(同社員)

 これだけで済めばよかった。だが翌週の全社朝礼で、常務の口にしたひと言が社員をしらけさせてしまったのだ。「社員一人ひとりが、社長が流された涙を自分の問題として受け止めてください。社長に感情移入できない社員はわれわれの仲間でありません」。

 それ以降、社内各部門の朝礼で、この会社の理念とミッションが解説された『スピリッツブック』が輪読され、当番の社員はみずからの経験をミッションに当てはめて捻り出した教訓と、今後への決意表明をすることになった。精神主義はメールにも現われる。

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