78億円払い戻し「馬券富裕層」 外れ馬券の経費認める逆転判決(東京高裁)

 競馬の外れ馬券の経費性を巡って、6年間で総額78億3800万円の払い戻し金を受け、追徴、延滞税なども含めて5億円以上の支払い義務(追徴課税約1億9400万円)が発生したのは違法だとして、北海道の男性が国を相手取って処分取り消しを求めて訴訟の控訴審判決が21日東京高裁(菊池洋一裁判長)で行われ、原判決を取り消して、男性側の主張が認められ逆転勝訴となった。

 はずれ馬券が経費に算入できるか否かがポイントとなった今回の訴訟だが、先に大阪の男性の刑事事件(所得税法違反の罪)のケースでは、昨年3月の最高裁判決で経費性が認定されている。ただし、この男性と北海道の男性が根本的に異なっている点は、大阪が予想ソフトをアレンジした運用で買い目を全レース購入していく、自動的なものに対して、後者は自身で培った経験を基にして様々な要因を組み合わせて分析して購入するというもの。いわば前者が自動、後者が手動ということになる。

◆2人の訴訟の経緯◆
◆突然10億円課税された会社員
◆「馬券富裕層」誕生は想定外だった国税庁、78億円馬券男は?
◆外れ馬券経費にならず、78億円払い戻し男性敗訴(東京地裁)


ケネス・グリフィン氏
 大阪の男性のように機械的に全レース購入するような継続的、恒常的な経済活動があると認められれば、外れ馬券は経費として認定される。しかし、全レース購入しようとも、北海道男性のように独自の予想での購入はギャンブルだとして一時所得扱い、つまり外れ馬券は経費ではないと認定されていた。

 北海道男性の場合は、一審ではレースごとに自身で予想しており経済活動として認められなかった。ただ、控訴審では男性の主張をほぼ全面的に認めている。男性は「コンピュータソフト以上に正確な分析を行っていたことは明らかだ」などと主張していたが、まさに「天才馬券師」と言うほかない。6年間総額78億3800万円の払い戻し金という数字が、それを語りつくしている。

 確率的にもこんな天才は出現しないと思われるために、競馬などギャンブルは基本的に一時所得であるという前提になる。昭和45年の参議院大蔵委員会で、当時の国税庁長官・吉國二郎氏による興味深い答弁があるのでここに記しておく。一時所得か事業所得か、について「御承知のように、ギャンブルの所得は一時所得になるわけでございますが、もちろん常習でやっておればそれは事業所得になる場合もございます」と、事業所得の可能性に触れた。

 その上で「(テラ銭などを差し引けば)本質的には総体としては損なわけでございますね。ですから、うまくやった人はどのくらいもうけたかというのは、これは全く事実に基づくので、推計不可能であろうと思います」と、ギャンブルで大金を稼ぎ続けることの難しさに言及している。

 北海道男性による平成17年から同22年までの税務申告額と、処分庁の更生額は次のようになる。

◆男性が申告した雑所得+給与と税額
平成17年 2118万円   456万円
  18年 6211万円   1972万円
  19年 1億2509万円  4663万円
  20年 1億921万円  4021万円
  21年 2億1182万円  8125万円
  22年 5949万円   2029万円
※1000円以下は切り捨て

◆処分庁による更正金額と税額
平成17年 4670万円   1401万円
  18年 8595万円   2854万円
  19年 2億9041万円  1億1276万円
  20年 1億9692万円  7529万円
  21年 2億6012万円  1億54万円
  22年 1億2313万円  4574万円
※1000円以下は切り捨て

 大阪男性は約10億円、北海道男性は約5億円という、ともにサラリーマンだが一個人の担税力をはるかに超越した追徴課税を行うなど、あまりにも行きすぎではないかとの指摘もされていた。そもそも、馬券による富裕層の誕生はないものと国はこれまで考えていたが、国税庁はすでに所得税基本通達34-1の改正を予定しており、2人の男性は国を動かし、馬券富裕層への道筋をつけたという意味もある。

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