「もはや、打つ手がない」。
ビジネスの現場で複数の問題に直面し、そのような絶望的な気分になる問題に直面した経験は、誰にも一度はあるはずだ。だが、そんな場面で、一気に状況を好転させるアイデアが思いつくかどうか、それこそが成功と失敗を分けているのである。
任天堂『ドンキーコング』は八方塞がりの状況で生まれた!
『ドンキーコングシリーズ』や『スーパーマリオシリーズ』の生みの親として知られる、任天堂のゲームプロデューサー、宮本茂氏もある時、そうした問題に直面した。
それはまだ、ファミリーコンピュータが開発される前、ゲームセンターで『パックマン』といったアーケードゲームが流行っていたころのこと。当時の任天堂は、ヒットするアーケードゲームがなかなか開発できないでいた。
そんなとき宮本氏は、社長だった山内溥氏から、「とにかく、売れるゲームをつくってくれ」と命じられる。そこで考えたのが、ひげを蓄えたオーバーオール姿のキャラクターが、落ちてくる樽を避けながら、アミダくじのような梯子を登っていくゲームだった。それが、のちにファミコンソフトでも大ヒットすることになる『ドンキーコング』の原型だった。
だが、開発当初のゲームは、あまりにも難しくて、誰にもクリアできないものだったという。しかも、ただひたすら転がってくる樽から逃げながら、我慢に我慢を重ね、梯子を登っていく、苦行のようなゲームになってしまったのだ。
しかし、テレビゲームの創世記である当時の技術には限界があり、それ以上は工夫のしようがない……。まさに八方塞がりの状況だった。
そんなとき、宮本氏の脳裏にふと浮かんだのが、ゲームキャラクターに〝ジャンプをさせる〟アイデアだった。
ジャンプして樽を乗り越えれば、ゲームの難易度も下がるうえに、なんだかとても楽しい。
しかも、ジャンプさせるアクションを採用することで、目の前の障害物や落とし穴を乗り越える機能以外にも、登場キャラクターはさまざまなことができるようになった。
たとえば、頭上のブロックを叩く、落下地点にいる敵キャラクターを踏んづけてやっつけるなどの機能まで持たせることができるようになり、ゲームの面白さが何十倍にもなったのだ。
アイデアとは「複数の問題を一気に解決する」ものである
たったひとつの「ジャンプ」というアイデアが、いろんな問題を解決しただけでなく、さまざまな付加価値もゲームに与えた。それが『ドンキーコング』を大ヒットに導いたのだ。
こうした経験から、宮本氏は、それまで様々な言葉で語られていた「アイデア」というものをこう定義した。
「アイデアとは、複数の問題を一気に解決するものである」。
そう。本当によいアイデアとは、複数の問題を一気に片付け、さらにシナジー効果まで生み出すものなのだ。
そもそも単一の問題だけを解決するのは、そんなに難しいことではない。対症療法的な対処で十分、その場をしのげるからだ。また過去の例にならってみたり、代替案に置き換えたりするだけで解決できるケースが多くある。
そうではなく、たったひとつのことで複数の問題を一気に解決してしまう。そんなひらめきこそが本当の「よいアイデア」、このコラムでいう「インクルーシブ(包括的)なアイデア」なのである。
ビジネスの現場では、商品開発の現場や組織改革、対人関係の問題を解決したいときや、起業したいとき。周囲の変化に対応せざるを得ないときなどで〝あっちを立てれば、こっちが立たない〟といった複数の問題に頭を悩ませることが少なからずある。
たとえば〝速さを優先すれば正確さが担保できず、正確さを優先させると遅くなってしまう〟〝より品質を向上させたいが、コスト削減が求められている〟〝理想はわかっているのだけど、現実とのギャップを解消できない〟といった、トレードオフの問題がつねにつきまとうものだ。
なかには、いくつもの対立する問題が複雑に絡み合い、〝あっちを立てれば、こっちもそっちもすべてがダメになる〟といった問題が現れることだってある。
まるで、ルービックキューブで赤の面をそろえたあと、青の面をそろえようとしたら、先に揃えていた赤の面がぐちゃぐちゃになってしまうような問題。
それらを一気に解決するだけでなく、予期せぬ効果まで生み出してしまう、それが「インクルーシブなアイデア」のチカラなのだ。
「インクルージョン思考」で複数の問題を解決せよ!
私は「世界ふしぎ発見!」「BSフジLIVEプライムニュース」などを手がける放送作家、である。そうした複数の問題を一気に解決する、インクルーシブなアイデアを生むための思考法を「インクルージョン思考」と名付けている。