2016年、ヘッジファンドで運用している投資家は、気が気ではなかったのではないだろうか。
年間を通して聞いたのは、いかに運用に失敗しリターンはマイナスになっているかという報道がほとんどで、ヘッジファンドの解約が相次いでどんどん資金が引き上げられている、ヘッジファンドマネジャー自身も自分の能力を信じられなくなっているといった、ネガティブなものばかりだったという人も多い。
著名ヘッジファンドマネジャーのファンドも、多くが低調なパフォーマンスに終わった。
レイ・ダリオ氏が率いる世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツのほか、ジョン・ポールソン氏のファンドなども2ケタのマイナスに沈んだ。
ヘッジファンドの世界でトップに君臨する人々の苦戦ぶりが、「ヘッジファンドがダメ」の空気に拍車をかけた。
特にリターンが最悪だったのは、マクロトレンドと株式ヘッジに注力する戦略だ。膨張する株式市場の評価と超低金利により、今までも低い運用成績に留まっていた。
運用成績が伴わないと、その高い手数料もネックとなる。ヘッジ・ファンド・リサーチ(HFR)社によると、ヘッジファンドの解約額は150億ドル(約1.6兆円)となり、運用総資産額は2.9兆ドルから2.86兆ドル(約310兆円)に減った。
全体の額の多さに比べると小さいようにも思えるが、約400億ドル(4.7兆円)のマイナスであり、この解約額は、リーマンショック時2009年の4~6月期に記録した430億ドル以来の規模となった。
実はよかったものも多かった
HFR社の発表した数字は厳しいものだが、その一方で、クレディ・スイスはヘッジファンドに関して異なる見解を示している。
同社は2016年にその運用成績から多くのヘッジファンドが解約されたことを事実を認めながらも、同社が調査した200以上の機関投資家のうち、89%がヘッジファンドへの追加投資を考えていることに言及している。
クレディ・スイスは「ヘッジファンドの解約は個別のファンドのパフォーマンス低迷が原因で行われたもので、解約されたヘッジファンドの資産はほとんどが別のヘッジファンドに投資されている」としている。
2016年はヘッジファンドに関して暗いニュースの飛び交う年となったが、全体がダメでも調子のよいところが存在するのは世の常で、ヘッジファンドも同じだ。
よい話は広がらず、悪い話ばかりが拡散していくのまた世の常だ。
ジェイソン・マドリック氏らディストレスト債投資家の一部は、商品価格の上昇から恩恵を受けた。
それまでの運用成績が最悪でも、アメリカ大統領選の結果を受けて持ち直したヘッジファンドもある。
ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントのマスター・ファンドや、ルビコン・ファンド・マネジメントのグローバル・ファンドはいずれも11月に好成績を挙げ、年初来マイナスの続いていたパフォーマンスをプラスに転じさせた。
株式ロング・ショート戦略のプロキシマ・キャピタル・マネジメントは年初来好調なパフォーマンスをキープし、11月にはその月だけでプラス14%のリターンを上げ、プラス44%まで伸ばした。
大統領選に勝利したトランプ氏が大統領に就任後、公約に掲げている政策が実行され、成果が伴っていけばアメリカは好景気になると考えられている。
市場に積極的に介入するよりも民間の自発的な動きや自然の流れに任せるタイプゆえ、市場の活性化に伴い金利の上昇、企業間の利益格差拡大が進み、その結果さらなる企業の合併・買収(M&A)活動が促されていくと見られている。
そうなればヘッジファンドの成績はマイナスのところもプラスに、プラスのところは追い風が望める。
特にディストレスト債はすでにプラスが大きかったことからも、この流れは好都合だ。
ブルームバーグが発表した、2016年のメジャーなヘッジファンドの運用成績と、好調だったところ、不調だったところは以下の図の通りとなる。
著名ヘッジファンドマネジャーで「金融史に残る最高のトレードを成功させた人物」と言われるジョン・ポールソン氏の今年の運用成績は散々だったが、その理由は今年の政治の動きが彼にマイナスだったことも大きい。
彼は医薬品株が上がると読み、保有数を増やすも、ヒラリー・クリントン氏が大統領選の演説で「製薬会社の薬価は高すぎる」と槍玉に挙げ、保有していた医薬品株が軒並み下落した。
彼にとって天敵とも言えるヒラリー氏が敗れ、彼が支持するトランプ氏はオバマケアの継続を明言していることからも、彼の読み通り医薬品やヘルスケア関連は今後上がる可能性もある。
2017年、ヘッジファンドの反攻の機会は十分にあると言えるだろう。
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