「日本にこんなワインがあったのか」~鳥居平物語~(2)

 

(第2回)「極上のワイン『鳥居平』誕生の秘密」

経済ジャーナリスト 湯谷昇羊

 私が訪ねた勝沼町は甲府盆地の東端にあり、日本1のワイン生産量を誇る。JRの「勝沼ぶどう郷」駅からタクシーに乗車して5分ほどで『鳥居平』を醸造している「シャトー勝沼」に到着したが、その背後にそびえている山が勝沼のシンボルともいえる柏尾山である。この地では実に1300年も前からぶどうが栽培されてきており、日本固有の品種「甲州」もここで誕生している。その南西に面した斜面70ヘクタールのぶどう畑を地元では鳥居平と呼んでいる。

実はぶどう栽培にも適さない土地


鳥居平の風景
 『鳥居平』とはもともと土地の名前だったのである。毎年10月の初めにぶどうの収穫が無事にできたことを感謝して、100年以上も前から収穫祭が行なわれている。このとき柏尾山の中腹では、京都の大文字焼きのように鳥居を形どって山を焼く。そこから鳥居平と呼ばれるようになったようだ。

 標高約500メートルの斜面に位置する鳥居平の土壌は、礫(れき=小石)混じりの粘土質で水分の吸収が悪く、水はけがよく保水率が低いという特徴がある。つまり痩せた土地で、ぶどう以外の作物の栽培には不適格の土地なのだ。ぶどう以外といったが、実はぶどうの栽培にも適していない。

 例えば近くの石和地区の場合、地下水が上まで来ており砂混じりの土地であるため、肥料を与えるとぶどうが大きく根を張り、肥料を吸収してたわわに実るぶどうがたくさん収穫できる。これに引き換え鳥居平はというと、痩せ地のためぶどうの粒張りが悪く収穫量も少ない。このため鳥居平は、長くぶどう栽培に適さない土地であり、当然、ワイン用のぶどうにも適さない土地だと思われてきた。 

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