破綻するブラック企業の楽しみ方(8)

第8回 希望退職を即決する社員、逡巡する社員――それぞれの胸中
 前号でレポートしたように、あるマーケティングコンサルティング会社緊急朝礼を開いて100人の希望退職者を募った。多くの社員にとって予期していた出来事だったが、いざ発表されると職場の空気が止まった。そして一部の部署に追い討ちがかけられたのだった。(経済ジャーナリスト・浅川徳臣)

部長から個別縁談


 朝礼を終えて1時間がすぎたころ、いくつかの部門では社員一人ひとりが、順番に部長に呼ばれた。対象になったのは事業企画、調査、システムサポートの3部門。部門が閉鎖されるので、希望退職を検討したらどうだろうか。在籍を続けることも可能だが、会社が用意できる担当業務は、新規のコンサルティング先獲得の営業である。そんなメッセージだった。

 どの部長も言いにくそうで、損な役を引き受けさせられたという表情に満ちていた。この場合、会社ではなく、直接伝えた上司が恨みを買うものなのだ。なぜ役員ではなく自分が伝えなければならないのか。矢面に立たなければならないのか。しかし、汚れ役を下に押しつけるのが組織の論理なのだ。彼らはそう割り切らざるをえなかった。

 面談を終えてデスクに戻った社員たちは、多くが退職へと気持ちが固まり、さっぱりとした表情だった。調査部門のメンバー3人は打ち合わせスペースに集まって、互いの意思を確認しあったが、もう結論はわかっていた。

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