元巨人・桑田真澄氏と同じ手術を乗り越えプロに
巨人入団時の江川卓氏。どんな選手
でも引退する時は必ず来る
非情の通告が、静けさが漂う会議室に響く。プロ野球チームは目の前の試合を戦いながら、同時に次のシーズンを見据えてチーム編成をしていかなくてはならない。毎年、10月には、「戦力外通告」を受ける選手の携帯電話が鳴る。
非情の呼び出し。現在FXトレーダーのAさん(33)もそうだった。一方的、あるいは事務的に通告を言い渡され、ユニフォームを脱いだ。
「野球好きな父親の影響で始めました」と小学生時代から野球一筋。運動神経抜群の左腕は、エースとして高校時代は愛知県大会でベスト4、大学には野球推薦で入学した。4年生時に肘に大きな故障を経験し、そこから3年間の手術とリハビリの日々を送ったものの、2003年、某パ・リーグの球団に育成選手として入団した。
「4年生で左ひじのじん帯を断裂して、医師には治らないとも言われましたが、桑田(真澄)さんがしたような移殖手術をして、3年間リハビリをしました。入るまでが長かったこともあって、入団テストに受かって、今、思えばそれで満足してしまったのかもしれません」
A氏は結局、日本一はおろか、一軍のマウンドを踏むことなく球界を去っていった。知人や先輩たちのツテで、サラリーマンに。スーツを着用して、頭を下げて営業に行く日々。1日200件の訪問はザラ。必死で汗をかいた。だが「生活のために、夢も希望もなく生活している自分」に気が付いたという。