日数調整だけではダメ
前回のPT特集で取り上げた「非居住者」の定義を、もう一度おさらいしておく。それは、国内に住所や扶養家族を持たず、滞在日数は1年未満だということだった。確かに、武井俊樹氏は日数の面はクリアーしていた。ただ、それだけではダメだった。一審判決で「贈与税回避を目的としていたか否かが(中略)生活の本拠であったか否かに決定的な影響を与えるとは解しがたい」として主張を認められた。だが、二審では「贈与税回避を可能とするために香港に出国するものであることを認識し(中略)滞在日数を調整していたと認めるのが相当である」と一転している。
日本のPT研究の第一人者・木村昭二氏は「一番の問題点は、非居住者という身でありながら日本の東証一部の企業の役員(元専務取締役)であったことだと思われます。香港では投資会社の社長ということであったとされますが、日本の大手企業の実質的に業務を執行する役員で、日本で開催された役員会にも出席していたとなれば、仕事は主として日本でやっているでしょう。ならば日本居住者とみなされます」と説明した。
あくまでも武富士の専務であり、跡取りという立場。同社の所在地は日本国内であるために国内に生活基盤があると見られてしまったのは仕方のないことかもしれない。
そして「香港滞在はあくまで一時的と判断されても無理はありません。もし、香港滞在で日本の企業の役員を退任していればまだ非居住者としてみなされた可能性があったかもしれません。また、東京にいつでも戻れるような家があったことも非居住者とはみなされないということでしょう。法令では住所は客観的事実によって判定するとしているので、形式的に香港に住んで仕事をしているとしても非居住者としては認められないということです」と、木村氏は付け加えた。
この場は司法判断について論じることはないが、裁判資料や各種の論文からもう少し細かく検討していく。