M資金詐欺の黒幕は帝国ホテルに住んでいた「闇の番人」田中森一(6)

まさかの宅見組長が詐欺師のターゲットに

 詐欺師はどこにでもいる。田中は“闇社会の守護神”といわれた弁護士時代、山口組若頭の故・宅見勝組長の顧問弁護士だった。当時、山口組ナンバー2のポストにあった裏社会の超大物も詐欺師に騙されたと、田中は取って置きのエピソードを披露する。

 ある日、大阪市内の田中の事務所を宅見組長が訪れ、富士銀行の京都の支店が発行した60億円の数字が並ぶ定期預金の通帳を持参した。警察のガサ入れ等で通帳が押収でもされたら、ややっこしいことになるから預かってほしいという依頼だった。

 「かまいませんが、これどうしたんですか」

 宅見組長が言うには、知人の紹介である金融関係の人間が持ち込んだという。「来年満期になるのですが、どうしても1億円の現金が必要なんです。今、解約して数千万円の金利を捨てるわけにはいきません。組長、1億円用立ててください。満期になったら5億円のお礼をします」と、その人物の話だった。

 宅見組長も若い衆を大阪・梅田の富士銀行の支店に走らせ、窓口の女性行員に60億の数字が並ぶ定期預金の貯金通帳を見せると、「うちの通帳に間違いありません」という返答だった。すでに1億円を用立てその人物に貸し、担保として通帳を押さえたという。

 「宅見さん、この話おかしいとは思いませんか?」と田中は切り出す。

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