連夜の送別会に深い仲になる男女も
この就職難の時代にあてはあるのか? 心当たりのある先に声をかけておこうか? これまでの労をねぎらうよりも何よりも、当面の生計を心配してくれたのだった。
一方、送別会はもはや何の利害もない同士、ノーサイドの空気に満ちあふれ、元社員が駆けつけるなどして、それぞれ思い出話に談笑しあった。連夜の宴はときに狂乱へと進展した。刹那の解放感に意気投合しあう男女も現われ、お開きののちに真夏の闇へと抜け駆けしたのだった。
そして最終出社日。自分のデスクをていねいに拭いてケジメをつける社員、社内を廻って挨拶を交わす社員。遠方で訪問できなかった取引先へ電話で挨拶する者。残る社員の胸中は寂寞とし、挨拶に訪れた退職者に返礼の言葉が出ずに、涙で返す者もいた。ブラック企業といえども、ともに働いた仲間との、こうしたかたちでの別れはさびしく、つらい。
午後3時には各部門で花束進呈のセレモニーが執り行なわれたが、寿退職などとは違って事情が事情だけに、虚礼の色彩が強かった。空気はシラーっとしてしまい、退職者の挨拶も型どおりで、気持ちがこもらない。その後、退職者たちは会議室で人事担当者にIDカードと保険証を返却し、社会保険手続きの書類を受け取って、会社をあとにしたのだった。